地下鉄五橋駅から降りて荒町商店街を5分ほど歩くと荒町商店中華そば「ふじやま」が姿を現す。昼にいつも行列が出来ている人気ラーメン店で、絶品の煮干しスープラーメンをはじめ、生ハムのような低温チャーシューや味付き替え玉など仙台ではあまり見られない新鮮な味わいも楽しめる。お店の内装やかかっている音楽も洒落ていて、店主はどんな人なのか興味を持ったので勇気を出して取材を申し込むと、快く引き受けてくれた。後日話を聞いてみると、その生い立ちから煮干しスープラーメン誕生の経緯、さらにはバックパッカーをしていたという知られざる一面まで聞くことができた。
人気店店主はバックパッカー経験の持ち主だった
普段は店の奥の厨房で調理をしている人気店の店主は、小松大輔(こまつだいすけ)さん(43)。実は世界各地を旅して回ったバックパッカー経験の持ち主なのだという。
「ロンドンに住んでいたことがあるんですよ。24歳の時に半年ぐらい。最初アメリカ行くつもりで貯金していたけど、知り合いもいなくて不安で。友達の友達がロンドンに住んでいて日本に帰って来たって言うんで。話を聞かせてもらったら、その人に『ロンドン向きだよね』みたいなこと言われて。なんも考えずロンドンに(笑)。半年間生活してそのまま帰ってこようと思ったら。当時猿岩石ブームで日本からどんどん人が来る。話を聞くと道中の面白い話を聞いて。自分も見てみたいなと。それでマーケットでバックパッカーの準備買って。とりあえずエジプト行きたいなと思って。フランス、イタリア経由でエジプト行ってその後、トルコ、イラン、パキスタン、インド、ネパール、タイに行って。そこから日本に帰ってきて。」
ロンドンでイギリス人が経営するラーメン屋に衝撃を受ける
子供の頃から食べることが好きで、仙台の調理師専門学校を卒業後、30歳手前まで飲食店で働き、30歳から携帯電話の無線基地局を立てる仕事をするなど一時期飲食の仕事からは離れていたが、やっぱり飲食店をやりたいと3年前に現在のお店をオープン。お店のコンセプトのヒントとなったのがロンドンに住んでいた時に行ったラーメン屋だという。
「その時ロンドンにイギリス人が経営しているラーメン屋さんがあって。どんな感じだろうと思って行ったら、当時テクノがすごい流行っていたんですけど、テクノが店内に流れていて、店員が宇宙服みたいなコスチューム着てて(笑)。回転寿司みたいな感じになってて、ラーメン頼むとラーメンは直接出てきて、具は乗っていなくて、もやしとかチャーシューとか回転寿司みたいに回っていて。具だけ取るみたいな。近未来的な感じで。イギリス人が日本でラーメン食べたことがないのに想像だけで作ったみたいな(笑)。味はクソ不味かったんですけど(笑)。外国人の感覚の日本みたいな。飲食店やる時にはそういう感じの店ができたら良いなって。今はそういう感じとはズレてるんですけど(笑)」
ロンドンで出会ったイギリス人が想像だけで日本をイメージして作ったようなラーメン屋、そんな雰囲気が好きでお店の名前やコンセプトを外国から見た誇張された「和」のイメージにしたかったと小松さんは言う。「ふじやま」と言うネーミングやお店の佇まいには確かに外国から見た誇張された「和」を感じることができる。
荒町商店街に店を構えたのは、「和」のコンセプトを表現できるから
お店のコンセプトを「和」と決めたとき、そのイメージに合う場所がここ、荒町商店街だった。
「食べ歩きする中で最初に店構えを見ると、店構えだけでここ美味しいなって。周りの雰囲気も含めてマッチしていないと。コンセプトが『和』と決まった時にそれができる場所は限られていて。古い商店街で雰囲気があるところがいいなと思っていたら荒町の話が来て。」
古くから仙台藩に麹の専売権を与えられ味噌や醤油、酒の醸造元が立ち並ぶ商店街は「和」のコンセプトを表現するにはちょうど良かったということだ。 荒町の懐の深さが伺える。また現在の場所に店を出した理由はもう一つあったという。
「もう一つはラーメン屋の経験が無くてなんか話題になることがないかと思っていて。このお店の前のお店が【誠和】さんっていうラーメン屋さんで。味噌ラーメンと坦々麺を出すお店だったんだけど。個性的な店主の方で話題の店ではあった。そのあとに入る店はどんな店だろうって話題にはなるかなっていうのがあって。実際オープン前から話題にはなりましたね。」
出店にあたり、立地や店構え、オープン前の話題作り、メニューに至るまでとても緻密に考えられていたのだ。
煮干しラーメン誕生秘話、最初は「ホタテラーメン」だった!?
数ある飲食店の中で、小松さんはなぜ「ラーメン屋」を開業し、看板メニューを「煮干しスープラーメン」にしたのだろうか?
「サラリーマン時代に出張が多くて、よくラーメンは食べてました。飲食店をやると考えた時にあまり人を抱えるような居酒屋とかはできないな。ほぼ一人でできるようなのを考えると焼肉屋かラーメン屋かな?みたいな(笑)。ラーメンは好きだったので、それで試作を始めて。最初は中華そば作ったり豚骨を作ったり、色んなのを試して。2年ぐらい毎週試作を作った。最初これでいこうと思ったものは今と全然違うもので。【ホタテラーメン】みたいな感じだった(笑)。それで煮詰めていったらなんとなく煮干しになった(笑)。」
ふじやまが店を構える場所は、荒町商店街の並びの奥。途中にもラーメン店は複数あり、そ
こまで来てもらうためには間違いなく美味しいラーメンであることや来てもらうための話題作り、他の店には無い工夫が必要だった。
「ラーメン屋の経験が無いのと、家族がいて、子供が3人いるんですけど、まだちっちゃかったので路頭に迷わせるわけにはいかないなと思って。自分がこういうのを作りたいってよりも、失敗しないためにをすごく考えていて。その当時食べ歩きしていて東京では煮干しが流行っていて、仙台には専門店はそんなに無かったので。仙台は昔から味噌汁に煮干しを入れたり馴染みはあって受け入れられやすいのかなと。マニアックなラーメンよりも誰が食べても一発で美味いと言われるものじゃないと怖いなと。有名店で修行したとかだと今はネットとかで広まるけど、そういうのでも無かったので。一見さんのお客さんでも食べた瞬間に『これは美味いぞ。みんな美味いよ。』って話したくなるものじゃないとなかなか厳しいだろうなと。その点煮干しは旨味の塊で、引きの強さが凄くて、食べた瞬間美味いと思える。煮干し使わないラーメンってそんなに無いですけど、より分かりやすくってイメージして作って、低温チャーシューや味付き替え玉も仙台では当時無くて、2重3重に間違い無いようにしたって感じですね。」
バックパッカー経験がラーメン作りに活きる。あえて遠いところの材料を使うワケ
バックパッカーから、人気ラーメン店店主へ。豊富な海外経験は、今もお店のメニューづくりに活かされているという。
「食べることが好きだったので、バックパッカーをしていた時もタイで美味しい料理に出会って、どうやって作ってるか知りたくて地元の野菜や香辛料買って調理したり。その時の経験は大きいと思いますね。 香辛料とか調味料とか。だいたいみんな近場で探すじゃない。業者に聞いたり近いところで。俺は結構できるだけ遠いところから探すようにして。遠いところの方が新鮮味は感じると思うんですよ。九州の醤油は甘かったり。こっちの人に受け入れられるかは別として新しさを感じてもらえる。限定メニューをやる時は調味料から入りますね。遠いところの調味料使ってみたり。」
遠いところの材料を掛け合わせることによって新しいものが生まれる。チャレンジ精神旺盛な店主からは今後も新しい味との出会いが楽しめそうだ。
進化し続けるラーメン。20年30年続けて名店と言われる店に
店主にお店の今後の展望についても聞いてみた。「2号店とかやるつもりはないですね。20年30年続けられるラーメン屋さんっていいなって。飲食店全般は好きなので居酒屋さんやってみたい気持ちはあったり迷走はしてますけど(笑)。長くやって。名店と言われるような店にしていきたいですね。」
オープンしてから味は少しずつ変えているとのこと。最近になって自分が本当に食べたいラーメンに近づいているそうで、オープンした頃から大分味は変わっているそう。常に進化し続ける「ふじやま」のラーメンから今後も目が離せない。
(筆者:早坂理希)
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